長崎県弁護士会
(1) 以下のとおり,本件受益証券に係る販売会社である被上告人は,受益者に
対し,B社から一部解約金の交付を受けることを条件として,一部解約金の支払義
務を負い,受益者は,被上告人に対し,上記条件の付いた一部解約金支払請求権を
有するものと解するのが相当であり,そして,受益者の債権者は,受益者の被上告
人に対する上記条件付きの一部解約金支払請求権を差し押えた上,民事執行法15
5条1項に定める取立権の行使として,被上告人に対して解約実行請求の意思表示
をすることができ,この解約実行請求に基づくB社の一部解約の実行により,B社
から一部解約金が被上告人に交付されたときに,被上告人から上記一部解約金支払
請求権を取り立てることができるものと解するのが相当である。
ア本件約款の定めによると,本件信託契約に基づき,受益者は,B社に対し,
解約実行請求をすることができ,B社は,解約実行請求があった場合には,受益者
に対し一部解約を実行した上,原則として解約実行請求を受け付けた日の翌営業日
に販売会社の営業所等において一部解約金を支払う義務を負うものと解される。
こ
の義務は,本件信託契約の委託者であり,本件受益証券の発行者であるB社が負う
ものであって,本件信託契約の当事者ではない被上告人ら販売会社の義務ではな
い。
そして,一部解約の効力は,B社が一部解約を実行することによって初めて生
ずるものであり,受益者による解約実行請求の意思表示によって当然に生ずるもの
ではないと解される。
なお,本件委託契約は,被上告人が,本件受益証券に係る解約実行請求の受付や
一部解約金の支払等に関する業務を引き受けることを,B社との間で合意した業務
委託契約にすぎないから,これによって被上告人と受益者との間に一部解約金の支
払についての権利義務関係が生ずるものではない。
イしかしながら,本件取引規定は,被上告人と受益者との間の権利義務関係を
定めるものとして,受益証券等の解約の申込みは被上告人の店舗で受け付けるこ
と,解約金は取扱商品ごとに定められた日に被上告人の店舗にある受益者の指定預
金口座に入金することを定めており,本件受益証券の内容について定める本件約款
においても,受益者による解約実行請求はB社又は販売会社に対して行うものとさ
れているから,本件取引規定に基づき,被上告人は,受益者に対する関係で,受益
者から本件受益証券について解約実行請求を受けたときは,これを受け付けてB社
に通知する義務及びこの通知に従って一部解約を実行したB社から一部解約金の交
付を受けたときに受益者に一部解約金を支払う義務を負うもの,換言すれば,被上
告人は,受益者に対し,B社から一部解約金の交付を受けることを条件として一部
解約金の支払義務を負い,受益者は,被上告人に対し,上記条件の付いた一部解約
金支払請求権を有するものと解するのが相当である。
なお,本件約款によれば,解約実行請求は本件受益証券をもって行うものとされ
ているところ,販売会社の販売に係る本件受益証券は,当該販売会社が保護預りし
ており,記録によれば,保護預りに係る本件受益証券は,受託者であるC信託銀行
に大券をもって混蔵保管されていて,受益者に本件受益証券が交付されることは予
定されていないことがうかがわれるから,本件約款上は,直接B社に対して解約実
行請求を行う方法も認められているが,事実上,解約実行請求は販売会社を通じて
行う方法に限定されているのであって,このような取扱いの実態に照らしても,販
売会社である被上告人と受益者との間には上記のような権利義務関係があるものと
認めるのが相当である。
そして,上記のとおり,本件受益証券は受益者に交付されることが予定されてい
ないことからすれば,上記のような条件付きの一部解約金支払請求権は,債権差押
えの対象となるものと解すべきであり,本件被差押債権は,AがB社から購入した
本件受益証券に係るAの被上告人に対するこのような条件付きの一部解約金支払請
求権であるということができる。
ウ金銭債権を差し押さえた債権者は,民事執行法155条1項に基づき,自己
の名で被差押債権の取立てに必要な範囲で債務者の一身専属的権利に属するものを
除く一切の権利を行使することができる(最高裁平成10年(受)第456号同1
1年9月9日第一小法廷判決・民集53巻7号1173頁)。
前記のとおり,本件
受益証券に係る受益者の被上告人に対する一部解約金支払請求権は,B社から被上
告人に対する一部解約金の交付を条件として効力を生ずる権利であるから,解約実
行請求をすることは,一部解約金支払請求権の取立てのために必要不可欠な行為で
あり,取立ての範囲を超えるものでもない。