主文

1原判決中,控訴人A1及び同A2に関する部分を取り消す。
2被控訴人は,控訴人A1に対し,金2199万9350円及びこれに対する平成7年7月18日から支払済みまで,年5分の割合による金員を支払え。
3被控訴人は,控訴人A2に対し,金1523万0717円及びうち金1383万0717円に対する平成8年12月1日から支払済みまで,年5分の割合による金員を支払え。
4その余の控訴人らの本件各控訴をいずれも棄却する。
5訴訟費用は,控訴人A1及び同A2と被控訴人との関係では,第
1,2審とも,被控訴人の負担とし,その余の控訴人らと被控訴人との間に生じた控訴費用は同控訴人らの負担とする。
6この判決は,第2項及び第3項に限り,仮に執行することができ
る。

事実及び理由

第1当事者の主張

1控訴人ら
(1)原判決を取り消す。
(2)被控訴人は,控訴人A3に対し,原判決別紙物件目録(1)記載の土地及び建物につき設定された山口地方法務局岩国支局平成7年8月29日受付第10215号根抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。
(3)被控訴人は,控訴人A4に対し,原判決別紙物件目録(2)記載の土地につき設定された山口地方法務局岩国支局平成7年8月29日受付第10215号根抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。
(4)被控訴人は,控訴人A5に対し,原判決別紙物件目録(3)記載の土地及び建物につき設定された山口地方法務局岩国支局平成7年8月29日受付第10216号根抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。
(5)被控訴人は,控訴人A6に対し,原判決別紙物件目録(4)記載の土地及び建物につき設定された山口地方法務局岩国支局平成7年6月20日受付第7035号根抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。
(6)控訴人A7と被控訴人との間において,同控訴人の平成7年7月20日付け限定保証契約(主債務者を有限会社Bとし,元金560万円及びこれに対する利息及び遅延損害金等を限度額とするもの)に基づく連帯保証債務の存在しないことを確認する。
(7)主文第2項同旨
(8)被控訴人は,控訴人A2に対し,1546万円及びうち1406万円に対する平成7年7月15日から支払済みまで,年5分の割合による金員を支払え。
2被控訴人
控訴人らの本件各控訴をいずれも棄却する。

第2事案の概要

1控訴人A1及び同A2以外の各控訴人(計5名)に係る事案(以下「甲事件」という。)
本件は,有限会社Bの被控訴人に対する債務につき物上保証人等となった控訴人ら(控訴人A7を除く。)が,被控訴人のために根抵当権の設定等をしたのは,被控訴人職員から,真実は無効であるのに連帯保証債務を負っているものと誤信させられ,同保証債務の履行請求を受けたくなければ不動産を担保として提供するようにと強迫されたからであり,また,被控訴人は,Bの経営を維持してゆくことは困難であると判断し,Bに対する融資を継続する意思がないにもかかわらず,融資を継続していくものと控訴人らを誤信させたからであることを理由に,根抵当権設定契約等は錯誤無効,又は詐欺ないし強迫により取り消したとして,その設定登記の抹消登記手続等を求め,控訴人A7も前同様の事由を理由として被控訴人との間における元金560万円及びこれに対する利息及び遅延損害金等の連帯保証債務の不存在確認を求めた事案である。
2控訴人A1及び同A2に係る事案(以下「乙事件」という。)
本件は,Bの子会社C株式会社との間で建物建築の請負契約を締結して,被控訴人岩国支店のC名義の口座に工事着手金を振り込んだ控訴人らが, Cが工事着工をしないままBの倒産による連鎖倒産により前記着手金の返還請求権が実現不能となったことについて,これは,被控訴人が,経営状態が危機的状態にあったBに対する債権回収を図るため,控訴人A1及び同A2に,被控訴人岩国支店のC名義の口座に工事着手金を早期に振り込ませた上,同金員を被控訴人のBに対する貸付債権への支払に充当したことによるものであるとして,被控訴人に対し,不法行為(債権侵害)ないし不当利得に基づき,着手金相当額等の損害賠償を求めた事案である。
3その余の事案の概要は,次のとおり付加・訂正するほか,原判決「事実及び理由」欄中の「第4事案の概要」欄に記載のとおりであるので,これを引用する。
(1)原判決7頁下から3行目の「,,」を「,」に,同9頁16行目から同17行目にかけての「株式会社C」を「C」にそれぞれ改める。
(2)原判決12頁8行目から10行目までを次のとおり改める。
8被控訴人の主張
(1)甲事件関係
ア控訴人A3及び同A5は,各自の意思に基づき平成6年9月
22日に限度額1億5000万円の限定保証契約(以下「本件限定保証契約1」という。)をした。
被控訴人は,同契約の際,同控訴人らの保証意思を確認してはいないが,金融機関が自称代理人の言を信じて保証契約を締結した場合は,代理人に本人のために連帯保証契約を締結する権限があると信ずべき正当の理由があるかどうかの判断につき,本人の意思に基づいて従前同種の取引が行われていたときは,金融機関は保証意思確認義務を免れると解すべきところ,本件においても被控訴人は,従前,Bに対する貸付けにつき同控訴人らとの間において連帯保証契約を締結しているから,同控訴人らに対する保証意思確認義務を免れるというべきである。
仮に,同控訴人らが署名・押印した時に限定保証約定書(甲28)の金額欄が白紙であったとしても,それ以前の限定保証約定書(甲80ないし83)の作成に当たって,D(B及びCの代表者。)が同控訴人らを代理して保証契約を締結しているのであるから,平成6年9月22日付け本件限定保証契約1の締結についても,Dに同控訴人らを代理する権限があると信じるにつき正当な理由がある(民法109条,110条)。
イ平成7年3月31日付けの限度額2億円の限定保証契約(以
下「本件限定保証契約2」といい,本件限定保証契約1と併せて,「本件各限定保証契約」という。)についても,同控訴人らは,自らの意思で締結したものであるし,仮に,金額欄が白紙であったとしても,前記と同様の理由により表見代理が成立する。
ウ平成7年5月8日の重畳的債務引受契約(以下「本件債務引
受契約」という。)については,同控訴人らは,本件各限定保証契約に基づき,同時点での融資残高について重畳的債務引受に係る債務の連帯保証に応じたもの(なお,便宜上,控訴人らのした前記連帯保証債務を含めて,単に,「本件債務引受契約」ということもある。)であって,何ら錯誤や詐欺ないし強迫行為はない。
自ら連帯保証人となった覚えがないにもかかわらず,既に高額の保証人になっているとの説明だけで,約1億9000万円もの本件債務引受契約の連帯保証契約に応じることは考えられない。
仮に,本件各限定保証契約が無効であるとして,Dが同控訴人らに対し,連帯保証人としての責任を免れることはできないとの説明をしたとしても,第三者による詐欺であるところ,被控訴人は,そのことにつき善意であるから取り消すことはできず,かつ動機の錯誤であって表示されていないから無効主張は許されない。
エ平成7年6月20日に控訴人A6は,被控訴人に対し,根抵
当権を設定しているが,その際にも特に問題となるようなことはなかった。
また,同年8月29日に甲事件控訴人ら(控訴人A7を除く。)は,所有不動産に根抵当権を設定しているが,その際にも何ら錯誤や欺罔ないし強迫行為はなく,また,控訴人A3及び同A5から本件各限定保証契約に対する異議等は出ていなかったのみならず,控訴人A3は,進んで実母である控訴人A4の所有物件まで担保に供出している。
(2)乙事件関係
ア被控訴人には,B及びCを倒産させる意図などなく,同意図
に基づく被控訴人従業員の行為などもない。
このことは,控訴人A2の契約締 結日である平成7年5月21日及び控訴人A1の契約締結日である同年7月5日以降,被控訴人はBに対し,同控訴人らの工事代金を弁済財源とする融資を含め,多数回融資を行っていることからも明らかである。
同控訴人らの内金支払は,契約に基づくものであり,その支払時期と被控訴人の回収時期が偶然一致したものにすぎない。
被控訴人が回収の見込みのないBに対して追加融資を中止することは,金融機関として当然のことであるから違法性はなく,また,同控訴人らが損害を被ったのは,被控訴人が内払い金を弁済に充当したことによるのではなく,Bが倒産したことによるものであるから,両者間には因果関係が存在しない。
イまた,被控訴人が,同控訴人らの振り込んだ内払い金を弁済
に充当したのは,Bとの事前の合意及び同Cの重畳的債務引受契約という法律上の原因に基づく正当な権利行使によるものであるから,不当利得は成立しない。
ウ控訴人A2は,別事件における和解により,控訴人A6から
120万円を回収している。」
4原審は,甲事件につき,控訴人らの主張するところの錯誤,詐欺,強迫ないし信義則違反等の事実は認められないとして,甲事件控訴人らの請求をいずれも棄却し,乙事件についても,被控訴人には,控訴人らがC名義の口座に振り込んだ代金を,Bに対する貸付金の弁済に充当したことにつき,違法性は認められず,また,法律上の原因があるから不当利得も成立しないとして,乙事件控訴人らの請求をいずれも棄却した。
これらを不服として控訴人らから申し立てられたのが,本件控訴事件である。
5当審における争点も原審とほぼ同様であって,次のとおりである。
(1)甲事件
ア本件限定保証契約1の有効性
(ア)(主位的)控訴人A3及び同A5は,平成6年9月22日,被控訴人とBとの間の取引につき,限度額を1億5000万円とする連帯保証人となったか。
(イ)(予備的)仮になっていないとしても,同控訴人らに表見代理責任が認められるか。
イ本件限定保証契約2の有効性
(ア)(主位的)同控訴人らは,平成7年3月31日,被控訴人とBとの間の取引につき,限度額を2億円とする連帯保証人となったか。
(イ)(予備的)仮になっていないとしても,同控訴人らに表見代理責任が認められるか。
ウ本件債務引受契約に関する連帯保証契約の有効性
平成7年5月8日,同時点における被控訴人とBとの間の取引より
生じた債務を,Cがした重畳的債務引受契約について,同控訴人らは連帯保証したか。
(なお,アないしウの各争点として摘示した事由は,甲事件控訴人らの本件各請求の成否に直接的な形でかかわるものではないが,同控訴人らは,同各事由に掲げる各契約が不成立若しくは無効であって保証債務は存在しないのに,被控訴人担当者からそれが存在するものであることを前提として本件各根抵当権の設定に応じるよう求められたため,これに応じたものである旨をも主張しているので,本件における直接的な争点と併せて,便宜,これらの事由をも争点として摘示した次第である。)
エ本件根抵当権(1)ないし(3)の有効性
控訴人A3,A4両名(本件根抵当権(1)について),同A5(本件根抵当権(2)について)及び控訴人A6(本件根抵当権(3)について)が,各所有不動産に根抵当権を設定したのは,前記(原判決6頁5行目から同10頁5行目まで)の錯誤によるものあるいは被控訴人の詐欺若しくは強迫によるもの又は信義則違反若しくは権利濫用として無効といえるか。
オ平成7年7月20日設定の連帯保証契約の有効性
控訴人A7が,同日,連帯保証契約を締結したのは,前記(原判決
10頁6行目から23行目まで)の錯誤によるものあるいは被控訴人の詐欺若しくは強迫又は信義則違反若しくは権利濫用として無効といえるか。
(2)乙事件
ア被控訴人が,同事件控訴人らの振り込んだ工事代金をBに対する貸 付金債権に充当した行為は,不当な債権回収方法として,不法行為が成立するか。
イ同控訴人らは,被控訴人に対し,前記工事代金額につき,不当利得返還請求権を有するか。

第3裁判所の判断

1当裁判所は,甲事件控訴人らの本件請求は理由がないから,いずれも棄却すべきであると判断するが,乙事件控訴人らの請求については,被控訴人の本件債権回収行為は,信義則及び公正な商道徳に照らし正当なものとはいえず,不法行為に該当するというべきであると判断する(ただし,控訴人A2の請求については,被控訴人の弁済充当の主張に理由があるので,同弁済充当分を除いた部分を認容した。)。その理由は,次のとおりである。
2被控訴人のBに対する貸付けの経緯は,別表「取引経過表」のとおりであるが,そのとおり貸付けが実行されたことは,当事者間に争いがない。
3甲事件関係
(1)前記争いのない事実,証拠(甲1ないし68,70ないし90,99,乙1ないし89,92ないし97,原審証人E1,同E2,同E3,同E4,同E5,原審控訴人A3,同控訴人A5,同控訴人A7,同控訴人A6。
なお,前記書証には枝番を含む。
以下,特に記載のない限り同じ。)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア甲事件控訴人らとDとの関係
(ア)Dは,2級建築士の資格を有している者であり,建設会社に勤務した後,昭和61年にBを設立して建設業の経営を始め,平成元年,株式会社F(輸入部材を使用した建物建築を特色とする。)のフランチャイズ店としてCを設立し,その営業に従事していた。
(イ)控訴人A3は,Dと高校時代の同級生であり,土地家屋調査士の資格を有し,土地の測量等の業務に従事していた者であるが,BやCと仕事上の関係は少なかった。
(ウ)控訴人A5は,Dと高校時代の同級生であり,料理店のGで働いていたが,Dや控訴人A3の出資を得て,平成4年,Hという名称の会社を設立し,ゴルフの練習場の営業,ゴルフ用品の販売に従事していた。
(エ)控訴人A7は,Dと高校時代の同級生であり,昭和63年ころから水道工事を自営している者であり,その受注工事の主な発注者はBであった。
(オ)控訴人A6は,Dから誘われ,昭和62年,Bに営業社員として入社し,その営業に従事し,C設立後はその取締役に就任していた。
イ負債残高の推移等について
(ア)被控訴人のBに対する融資残高は,本件限定保証契約1(限度額1億5000万円)に係る保証契約書が被控訴人に提出された平成6年9月22日時点で,4660万円であった(同日付けの2000万円の融資を含まない。)。
このうち,控訴人A3が連帯保証人となっていたのは平成6年9月5日付けの2000万円のみ(平成3年10月7日付け融資3500万円について連帯保証をしていたが,同融資金は,同月31日に返済済みであり,また,平成6年5月6日の2000万円は,同年9月5日付け融資の2000万円で返済されたものと推認される。)であり,控訴人A5が連帯保証人となっていたのは,同年7月18日の2660万円のみ(同年8月5日の1600万円については同月22日に返済された。)であった。
前記負債の物的担保は,D所有の土地建物(a町b丁目所在)に設定されていた根抵当権(極度額2400万円)のみであった。
(イ)その後,前記負債残高は,前記のような貸付けの実行と建築工事遅延等による代金入金の遅れ等を原因として,7000万円から8000万円を上下して推移し,平成6年12月19日時点で9500万円と増大し,その後下記のとおり更に増大していった。
なお,その途中の平成7年1月20日,D所有の不動産(前記不動産と廿日市市に所在の土地建物)について,根抵当権(極度額3600万円)が設定された。
平成7年1月20日時点1億2000万円
平成7年2月2日時点1億1000万円
平成7年2月16日時点1億3500万円
平成7年3月3日時点1億2000万円
平成7年3月20日時点1億3750万円
(ウ)Bの経営はいよいよひっ迫し,支払手形の決済に迫られた。
そこで,Dは,被控訴人に追加融資の依頼をし,これを受けた被控訴人は,Dに対し,保証限度額の増額を求め,平成7年3月31日,前記の限度額2億円の保証契約書(本件限定保証契約2に係るもの)の提出を受け,4200万円の貸付けを実行し,その結果,負債残高は1億7950万円となった。
しかし,前記の融資を受けたにもかかわらず,Bの経営状態は改
善されず,被控訴人に対する負債は増大する一方であった。
その額は下記のとおりである(1万円未満は切捨て)。
平成7年4月5日時点1億9350万円
平成7年4月20日時点2億1350万円
平成7年5月8日時点2億6150万円
平成7年5月31日時点2億3524万円
平成7年6月20日時点2億3900万円
平成7年6月28日時点2億3883万円
平成7年6月30日時点2億8153万円
平成7年7月6日時点2億9903万円
ウ本件債務引受契約に関する連帯保証契約締結の経緯について
(ア)Dは,タイルの件でアメリカに発つ前日である平成7年4月27日ころ,被控訴人本店に呼び出され,被控訴人のE4理事,E6専務,E1(当時,被控訴人岩国支店長。)と面談したが,E6らの要求で翌日午前に再度面談した。
その席でDは,被控訴人に対し,これまでどおり融資を継続してくれるかどうか確認したが,確たる返答はなかった。
(イ)Dがアメリカに着くと,被控訴人の理事であるE3がホテルに電話を架けてきて,既に融資している分につき,控訴人A3及び同A5に連帯保証人となってもらうよう要求した。
(ウ)Dは,アメリカから控訴人A3に架電し,1億8000万円程の連帯保証人となるよう依頼したが,控訴人A3はいったんはこれを断った。
(エ)平成7年5月8日,Dは,控訴人A3及び同A5に対し,重畳的債務引受契約書(甲30の連帯保証人欄。
以下同じ。)に署名・押印するよう求めた。
控訴人A3がこれを断ると,Dは,同控訴人や控訴人A5は既に1億2000万円から1億3000万円の連帯保証人となっている旨伝えた。
控訴人A3は,これを確認するため,同日,被控訴人岩国支店に赴くこととし,なお,控訴人A5は,本件の処理については控訴人A3の判断に任せる旨申し向け,あらかじめ前記重畳的債務引受契約書へ署名・押印した上,これを同控訴人に交付した。
(オ)平成7年5月8日午後1時ころ,控訴人A3は,被控訴人岩国支店において対応したE1から,重畳的債務引受を求めるに至った経緯につき説明を受けた結果,これに同意することとし,同契約書(甲30)に署名・押印した。
その際,E1は,同控訴人に対し,同控訴人らが既に本件限定保証契約2の連帯保証人となっている旨を伝えた。
エ控訴人A6の本件根抵当権(3)について
前記のとおりBの負債が増大していく中,平成7年6月20日,控
訴人A6は,被控訴人職員から,Bに対する融資が与信枠2億円を超えることとなるので,控訴人A6所有の不動産を担保として提供するよう求められ,本件根抵当権(3)を設定した。
オその後の経過
(ア)平成7年6月23日に会合が持たれ,被控訴人側からはE3理事及び岩国支店長のE2らが,債務者側からはD及び甲事件控訴人ら(控訴人A4を除く。
以下,特に断りのない限り同じ。)がそれぞれ出席した。
E3理事は,同控訴人らに対し,「資金繰りの状況が悪く経営維持のためには,更に融資が必要であるので,保証人の方には担保を提供してほしい。」旨を申し入れた。
しかし,同控訴人らが,融資の継続は希望しながらも,連帯保証人となることは断ったところ,E3理事より「保証人がいなければ融資はできず,Bは倒産する。」旨の発言があった。
(イ)そのころ,被控訴人(E3理事が中心)は,Bの資材納入業者であった株式会社Iとの間で,Bの再建についての具体策についての協議を重ねたものの,結局,合意に至らなかった。
(ウ)平成7年7月19日にも前記(ア)とほぼ同様のメンバーで会合が持たれ,E3理事は,同控訴人らに対し,再度担保の提供を求めたが,同控訴人らは,これを断りながらも,E3理事らに対し,資金援助は今後も継続してほしいと強く要望した。
しかし,E3理事は,弁済原資となる仕掛け工事や未収金がなかったことから,Bに対し,今後,資金援助することはできないかもしれないと回答した。
(エ)平成7年7月24日,E3理事は,Dから,同月末に回収予定の未収金は回収できない旨の報告を受け,被控訴人として,以後の資金援助は打ち切ることを正式に決定した。
(オ)Bは,平成7年7月31日,手形の不渡りを出した。
同日,前記(ア)とほぼ同様のメンバーで会合が持たれた。席上,
E3理事は,Dや甲事件控訴人らに対し,Bに対する融資を打ち切ることを告げた。
また,E4理事は,甲事件控訴人らに対し,「今後未収金の回収とレンガの製造販売によってBに対する債権の回収を計るつもりである。
Bの負債について同控訴人らの保証債務は3億円に近いものとなっている。
これだけの額になっているのだから,大蔵省の監査が入れば,支払の請求をしなければならない。
形を整えるために,不動産を担保として提供してもらいたい。」旨を要求した。
その後,控訴人A3及び同A5は,保証人としての債務の履行を
迫られることを恐れ,「担保を提供すれば,当分の間は保証人としての責任は追及されない。
レンガの製造販売によって,長期的にみれば負債の返済が可能かもしれない。」などと考え,結局,担保の提供に応じることとし,同年8月29日,控訴人A3及び同控訴人からの求めに応じた控訴人A4は本件根抵当権(1)を,控訴人A5は本件根抵当権(2)を設定した。
以上のとおり認められる。
以下,これらの事実に基づき,各争点につき考察する。
(2)争点ア(本件限定保証契約1の有効性)について
アまず,本件限定保証契約1に係る契約書(乙2の1)作成の際,同契約書の金額欄が白紙の状態であったこと及び被控訴人が直接控訴人A3及び同A5に保証意思を確認していないことは,当事者間に争いがない。
さらに,証拠(乙2,原審証人E1,原審控訴人A3,同控訴人A5)によれば,同控訴人らは,Dや被控訴人から求められるままに,保証期限延長に関する限定保証約定書や保証期限延長に関する約定書等の書類(それらも保証限度額や期限欄につき白紙のものであった。)に署名・押印し,Dを通じるなどして印鑑証明書も交付していたが,それは,当初に連帯保証人となることを承諾していたJ邸工事代金2000万円を返済原資とする融資につき,入金が遅れているので当初の限定保証約定書を書き替える必要があるとの説明を受け,そのためのものと理解していたことによるものであること,白紙の金額欄については,同控訴人らが署名・押印した後で被控訴人の職員であるE1が具体的金額を記入したこと,本件限定保証約定書1に添付されていた同控訴人らの印鑑証明書は,新たに同控訴人らから徴求したものではないこと,の各事実が認められる。
これらの事実によれば,同控訴人らが,本件限定保証契約1の内容を認識していたとは認められず,その他本件各証拠中に,同控訴人らが,前記限定保証約定書1に署名・押印する際に,Dや被控訴人から,保証限度額が1億5000万円であるとの説明を受けていたことを認めるに足りる的確な証拠はない。
したがって,本件限定保証契約1が有効に成立したと認めることはできない。
イ次に,被控訴人の控訴人A3及び同A5に対する保証意思の確認義務及び同控訴人らの表見代理責任の有無につき検討するに,前記認定のとおり,確かに,同控訴人らは,本件限定保証契約1の前に,Bの債務につき連帯保証人となっていることが認められる。
しかしながら,それまでの保証額は,前記認定のとおり,控訴人A3が2000万円,同A5が2660万円に止まるのであって,1億5000万円もの保証額とは大きな乖離がある上,証拠(乙75ないし83)によれば,金融機関たる被控訴人としては,新規契約のみならず,限度額増額の場合であっても原則として連帯保証人となっている者に対してその保証意思を確認すべき取扱いになっていると認められる(前記証拠中には,平成6年9月22日以降に作成されたものもあるが,被控訴人の当然負うべき義務を具体的に書面化したものにすぎないとみるべきであるから, それ以前には被控訴人に前記義務がないということはできない。)から,本件限定保証契約1についても,被控訴人は同控訴人らに対してその保証意思を確認すべき義務を負っていたというべきところ,前記のとおり,被控訴人が同控訴人らの保証意思を確認していないことは当事者間に争いがない。
したがって,仮に,Dが同控訴人らの代理人として本件限定保証契約1を締結したとしても,被控訴人にはこの点につき過失があるというべきであるから,いずれにしても同控訴人らには表見代理責任は認められない。
ウよって,被控訴人の前記主張は理由がない。
(3)争点イ(本件限定保証契約2の有効性)について
ア被控訴人は,本件限定保証約定書1に控訴人A3及び同A5の署
名・押印を求める際に,金額欄等が白紙であり,同控訴人らの保証意思の確認もしていなかったことから,追認の意味もあって本件限定保証約定書2に「2億円」の記載をした上で同控訴人らの署名・押印を求めたものであり,本件限定約定書2には同控訴人らが署名・押印する前に「2億円」と記載されていたと主張し,証拠(原審証人E1,同E5)中にはこれに沿った証言部分がある。
しかしながら,前記のとおり,本件限定保証契約1の成立は認められないところ,証拠(乙1,7なし10,20ないし28,41)によれば,同約定書が作成された平成6年9月22日から平成7年3月30日までの間におけるBへの融資は,すべて本件限定保証約定書1に基づき,B社員KあるいはLが同控訴人らの氏名を予定連帯保証人欄に記入した借入れ申込書によって実行されており,少なくとも書面上は同控訴人らが関与した形跡はないから,同控訴人らが平成7年3月31日時点での総融資額が1億3750万円(同日付け融資の4200万円を除く。)に達していたことを認識していたとは断定できない。
その上,E1の前記証言も記憶が不明確であり(原審第17回弁論調書同証人60頁),本件限定約定書2が追認の趣旨も兼ねて作成されたというのであれば,当然,同控訴人らに交付する前に,被控訴人側で記入されたはずであるにもかかわらず,E5(当時被控訴人岩国支店次長)も,「2億円」の記載部分がだれによって記入されたのか及びその時期については分からないと証言するのみであって(原審第18回弁論調書同証人23頁),その信用性には疑問が払拭できず,採用することは困難である。
したがって,本契約書についても,同控訴人らが「2億円」との限定保証額を認識した上で署名・押印したと認めることはできない。
イまた,前記3(2)イで述べたところと同様,被控訴人には,同控訴人らの保証意思を確認すべき義務があったのにもかかわらず,これを怠った過失があるから,表見代理責任も成立しない。
ウよって,被控訴人の前記主張も理由がない。
(4)争点ウ(本件債務引受契約に関する連帯保証契約の有効性)についア前記3(1)ウ(エ)及び(オ)認定のとおり,控訴人A5は,本件債務引受契約の連帯保証に応じるか否かにつき,控訴人A3の判断にゆだねたが,同控訴人は,平成7年5月8日,E1の説明を受けてこれに応じることを決意し,自らも同契約書(甲30)に署名・押印した上で,同契約書をE1に交付したことが認められる。
イ控訴人A3及び同A5は,本件債務引受契約の連帯保証に応じたのは,E1が,1債務引受の対象となっている各債務は,Bが実際に工事をしている工事代金を引き当てに融資をしているものであって,工事代金が支払われれば,保証人に負担がかかるものではないこと,2工事代金は,被控訴人が債権譲渡を受けており,施主から直接代金が入るようになっており,確実に回収されるものであること,3被控訴人は,Bに対して引き続き融資を続け,絶対に倒産をさせないこと,4したがって,本件債務引受契約の保証人となっても,形式的なものにすぎないこと,5以前に金額欄等が白地のまま保証したことも,本件債務引受契約の保証人となることにより関係がなくなること,6同控訴人らから支払ってもらうことは考えていないこと,等の説明をしたことから,本件債務引受契約の保証人となることによって,金額欄白地のまま保証していることがなくなること,本件債務引受契約の保証人となることは形式的なものにすぎないことと理解したので,これに応じたものであり,錯誤ないし詐欺があるから,無効ないし取り消しうる行為である旨主張し,証拠(甲49,50,原審控訴人A3,同A5)中には,これに沿った供述部分がある。
ウしかしながら,前記1及び2については,工事代金が予定どおり支払われれば回収が可能であることは当然のことであるし,3ないし6については,被控訴人は,本件債務引受契約が成立し,控訴人A3らの連帯保証が得られれば,少なくとも当面はBに対する融資を継続する意思であったと認められ,B及びCからの回収が予定どおり進めば,同控訴人らに保証債務の履行を請求することはないと思われるから,その意味においてE1の前記言辞は何ら事実に反するものではないと認められるところ,同人が,これを超えて,金融機関である被控訴人が,融資先を絶対に倒産させないとか,連帯保証人である同控訴人らには絶対に請求しないと断言するようなことはまず考えられないというべきである。
したがって,同控訴人らの主張に沿った前記各証拠は採用することは困難であるといわざるを得ず,その他本件各証拠中に,同控訴人らが本件債務引受契約の連帯保証人となったことにつき,錯誤ないし詐欺によるものであると認めるに足りる確たる証拠はない。
エかえって,前記3(1)ウ(エ)及び(オ)認定のとおり,本件債務引受契約の際,控訴人A3は,Dから,既に1億2000万円ないし1億3000万円ほどの融資につき連帯保証人となっていること,また,E1からも,本件限定保証契約2の連帯保証人となっていることを告げられていることからすると,同控訴人としては,そのような事情をも承知した上で,Bの倒産を防ぐためには被控訴人からの融資を継続してもらう必要があると考え,本件債務引受契約の連帯保証に応じたとみるのが相当である。
オしたがって,控訴人A3及び同A5の主張は理由がなく,同控訴人らは,本件債務引受契約について連帯保証人としてその責任を負うに至ったものと認められる。
(5)争点エ(本件根抵当権(1)ないし(3)の有効性)についてア控訴人A3,A4両名及び同A5は,本件根抵当権(1)あるいは本件根抵当権(2)を設定するに際し,被控訴人の職員(E4理事)から,「保証債務の履行を直ちに請求する。」といわれ,強迫されたと主張し,控訴人A3及び同A5のこれに沿う供述がある。
しかし,前記認定のとおり,同控訴人らが被控訴人に対し本件債務引受契約の連帯保証に応じ,その後の融資についても連帯保証人となった結果,当時,2億円を超える保証債務を負っていたことは事実であり,担保の提供があれば,被控訴人が直ちに同保証債務の履行を求めることはなかったことも事実であるから,前記E4理事の発言が強迫行為に当たるとは到底いえない(なお,「形を整えるために」旨のE4理事の発言をもって,「当該担保権の設定が形式的なものであり,将来決して実行することはない。」との趣旨であると解することはできない。)。
したがって,前記供述によって,控訴人A3,A4両名及び控訴人A5の前記主張を採用することはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
さらに,同控訴人らは,被控訴人が本件根抵当権(1)及び(2)を行使することは,権利濫用あるいは信義則に反すると主張する。
しかしながら,被控訴人は,一会計年度の利益が2億円ないし2億5000万円程度の信用金庫であるところ(原審第19回弁論調書証人E3,62頁),控訴人A3及び同A5が本件債務引受契約の連帯保証に応じた平成7年5月8日以降も,1同日2250万円及び3600万円,2同月18日1000万円,3同月31日3200万円,4同年6月20日1000万円,5同月28日900万円,6同月30日4500万円,7同年7月6日1750万円,8同月20日560万円の融資を継続しており,同日時点でのBに対する融資残高は,被控訴人のほぼ1年分の利益に匹敵する2億3500万円強もの巨額に及んでいることを勘案すると,同控訴人らの同意の上で設定した本件各根抵当権を実行することは,被控訴人として当然の行為であるというべきである(むしろ,回収措置を講じないことが出資者に対する背任的行為となる可能性が否定できない。)から,信義則違反はもとより,権利濫用ともいえない。
したがって,同控訴人らの前記主張はいずれも採用できない。
イ控訴人A6の錯誤,詐欺,権利濫用,信義則違反の各主張は,要するに,被控訴人が,Bに対する融資を継続するのは困難であると認識していたことを前提とし,にもかかわらず,被控訴人は控訴人A6をして平成7年6月20日に本件根抵当権(3)を設定させたことを問題とするものである。
すなわち,控訴人A6は,被控訴人は平成7年6月20日にBに対する融資を打ち切ることを決定していながら,これを隠し,同控訴人に本件根抵当権(3)を設定 すれば融資が継続されるものと誤信させて同根抵当権を設定させたにもかかわらず,そのわずか3日後である同月23日には,Dや同控訴人らを集めた席上,E3理事が「D,もう楽になれ。」と融資打切りを通告したが,これは前記のとおり,錯誤や詐欺等に該当するものである旨主張する。
しかしながら,確かに,その時期において,被控訴人がBに対する
融資につき打切りを含めて検討していたことはうかがえるものの,前記のとおり,被控訴人は,同日における控訴人らとの協議を経て,Bに対し,同月28日から同年7月20日までの間,4回にわたり,合計7710万円(前記ア5ないし8)を追加融資しているのであって,これらの事実からすれば,被控訴人が同日時点において,融資打切りを決定していたとまで認定することは困難である。
ウこの点に関し,控訴人らは,被控訴人は,平成7年6月末が最もBに対する融資残高が少ない時であったが,控訴人らの反対に会い,融資打切りを延期せざるを得なかったところ,同年7月のみが融資残高を減少できうる唯一の月であり,しかも7月末日を待たずして打ち切れば更に有利となることから,単に融資打切りのタイミングを計っていたにすぎないと主張するが,金融機関たる被控訴人としては,なるべく有利な回収条件のもとで融資打切りを決定しようとすることにはやむを得ない面があり,本件において,被控訴人がこの時期に融資を打ち切ったとしても,そのことが,連帯保証人あるいは物上保証人となることを承諾した甲事件控訴人らとの関係においては,直ちに違法ないし不当な行為であると評価することはできないというべきである。
また,確かに,前記4回の融資は,後述するように,Cから債権譲渡を受けた,控訴人A2や同A1の請負工事代金によって返済が予定されていたものではあるが,これも,予定されたとおりに絶対的に確実に返済されるとまではいえないものである(現に同A1は400万円については,被控訴人ではなく山口銀行岩国南支店に振り込んでおり,被控訴人への返済には充てられていない。
甲75)。
エよって,控訴人A6の前記主張は,前提を欠くものであるから,採用できない。
(6)争点オ(平成7年7月20日設定の連帯保証契約の有効性)につい控訴人A7の錯誤,詐欺,強迫,権利濫用,信義則違反の各主張は,要するに,「平成7年7月20日に,本件保証契約締結に至ったけれども,それは,同日前の控訴人A7の保証債務は,保証契約の不成立又は無効によって存在しなかったばかりか,被控訴人は,融資を継続する意思がなく,融資打切りのタイミングを計っていたにすぎなかったにもかかわらず,被控訴人の職員が,これを秘して,保証するよう要求したからである。」というものである。
しかしながら,そもそも控訴人A7が被控訴人に対し,本件保証契約締結前(平成7年5月8日等)に,Bのために相当額の保証債務(前同日の時点での保証限度額は5850万円である。
ちなみに,同日時点でのBの被控訴人に対する負債残高は2億を超えていた。)を負担していたことは証拠上(甲3,36,乙60の3,原審控訴人A7)明らかである。
また,融資継続の意思がなかったとする点については,その4日後に正式の融資打切りが決定されており,このような被控訴人の採った手法が公正なものであると言い切れるか定かでない部分のあることは否定できないとしても,当時,被控訴人においては,Bに対する融資打切りを視野に入れた方策を探ってはいたが,打切りを確定させていたとまではいえず,現に,本件保証契約における保証限度額である560万円が同契約当日に被控訴人からBに対してその運転資金等として融資されている(甲65,乙40,原審証人L。
なお,同各証拠に反する甲90は採用できない。)のであって,既に相当額の保証債務を負担していた同控訴人が,被控訴人担当者からの説明に応じて本件保証契約を締結したことが,控訴人A7主張のように無効であるとまではいまだ認められないというほかはない。
(7)以上の次第であるから,甲事件控訴人らの請求は,いずれも理由がない。
4乙事件関係
(1)前記争いのない事実,証拠(甲19,30,39ないし48,64ないし67,70ないし77,85,86,90,乙1,原審証人M,同控訴 人A1,同控訴人A2)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
アCは,平成元年4月12日設立の株式会社であるが,自社で住宅等を建築する能力はなく,受注した工事はすべて一括してBに下請に出していた。
イ平成7年5月ころには,B及びCの入金はすべて被控訴人岩国支店の各社名義の口座に集約されていた。
ウ平成7年5月8日,被控訴人は,Bの債務につき,Cに債務引受をさせた(この時点におけるBへの融資残高は2億5300万円)。
エ平成7年5月8日,Cは,被控訴人の要求に応じ,横山敏子に対する請負工事代金6000万円,Nに対する請負工事代金8116万4000円,有限会社Oに対する同代金5250万円,Pに対する同代金2500万円,Q及びRに対する同代金5150万円,S及びTに対する同代金6592万円,Uに対する同代金8034万円並びにVに対する同代金4326万円を,それぞれ被控訴人に債権譲渡した。
オ控訴人A2は,Cとの間で,同年5月21日,請負人を同社とし,請負代金を3296万円とするA2邸新築工事の請負契約を締結したが,同月31日,Cは,被控訴人の要求に応じ,控訴人A2に対する同代金全額を被控訴人に債権譲渡した。
同日,被控訴人は,Bに対し,3200万円を融資しているが,これは控訴人A2に対する請負工事代金で回収することが予定されていた。
カ平成7年6月20日,被控訴人は,Bに対し,Wアパート工事代金で回収することを予定して1000万円を融資している(同融資後の残高2億3900万円)が,その際,被控訴人営業店(岩国支店と思われる。)は,「同社(B)への融資は受注工事量を超えており,また買い掛け債務,支払手形等を考えると今回が融資限度と思われる。」旨の意見を表明していた。
キ平成7年6月30日,被控訴人は,Bに対し,4500万円を融資しているが,これはWアパート及び控訴人A1に対する請負工事代金で回収することが予定されていた(同融資後の残高2億8383万3000円)。
なお,同融資に際し,営業店(岩国支店と思われる。)は,この融資に際しても,「同社(B)への支援は現況を考えると限界を超えているもので,現況以上の融資はいかがかと思います。」との意見を表明していた。
ク平成7年7月5日,控訴人A1は,Cの社員であった高校時代の同級生Mの誘いを受け,同社との間で,請負人を同社とし,請負代金を1億1000万円とするA1アパート新築工事の請負契約を締結したが,同年7月6日,Cは,被控訴人の要求に応じ,控訴人A1に対する同代金1億1000万円を被控訴人に債権譲渡した。
ケ控訴人A6(C取締役)は,被控訴人から営業努力を求められたので,控訴人A2に対し契約金の支払を求め,平成7年7月14日,控訴人A2は,前記契約金と着工時の支払金として合計1406万円を,被控訴人岩国支店のC名義の口座に振り込んだ。
コ平成7年7月17日,控訴人A1は,前記契約金として2199万9350円を,被控訴人岩国支店のC名義の口座に振り込んだ。
サ被控訴人は,前記振り込みのあった各日に,C及びBの承諾を得
て,これらをBに対する貸付金の弁済に充当した。
シ被控訴人のBに対するその後の融資は,平成7年7月20日の560万円のみである。
スCには,当時,前記各工事以外に新規の工事請負契約はほとんどなかった(平成7年6月下旬にWより受注した前記Wアパートは,当初予定されていた被控訴人から同人への建設費の融資がいったん立ち消えとなったため,工事着手金は支払われなかった。)。
セ平成7年7月31日にBが手形不渡りを出して事実上倒産し,これに伴い,Cも同様の事態に陥ったことから,乙事件控訴人らを各施工主とする各新築工事はいずれも全く着手すらされない(あるいはごく初期の基礎工事段階)状態のまま放置され,また,同控訴人らがCに支払った(振り込んだ)各工事契約金等も,B及びC(以下,「Bら」あるいは「建築会社」などということもある。)がいずれも倒産したことから,すべて回収が不能となった。
なお,同控訴人らは,Bらと被控訴人との取引の状況や前記債権譲渡の合意並びに苦しいBの経営譲渡等については何ら認識する立場にはなかった。
(2)前記(1)の認定事実及び甲事件に係る前記各事実によれば,被控訴人のした本件弁済充当行為は,乙事件控訴人らに対する不法行為(同控訴人らがCに対して有していた工事契約金の返還請求権を実現不能にさせたという債権侵害行為)に当たると認めるのが相当である。
その理由は,次のとおりである。
前記の事実によれば,1平成7年5月時点において,Bらに対する施主からの入金は,すべて被控訴人の岩国支店口座に集約された上,いずれも被控訴人のBらに対する貸付債権の弁済に充当されていたこと,2被控訴人は,同月8日にBの債務についてCに債務引受をさせる一方,Cの施主に対する請負代金請求権をことごとく被控訴人に債権譲渡させてその債権保全策を講じていたことから,Bらには運転資金と目されるものは全くないに等しく,必要経費はすべて被控訴人からの融資に頼らざるを得ない状態であった(原審証人L)こと,3そのころ,被控訴人のBに対する融資は過剰融資といえる状態にあって,Bの返済能力を既に超えるものであったこと,が認められ,これらの事由によれば,被控訴人のBに対する融資が打ち切られればB及びBの被控訴人の債務について債務引受をしていたCもまた,倒産必至の状態であったと認められる。
したがって,同控訴人らの契約金等が当該工事のために使用されなければBらの工事の遂行が不可能となることもまた当然に予測されていたものであり,被控訴人のE3理事及びE4理事らもこれらの事情を十分認識していたと認めることができる。
さらに,前記の各事実によれば,被控訴人は,平成7年5月時点において,既にBの経営状態に危機感を抱いていた上,その後も融資残高は増大する一方であって,本件弁済充当当時には,今後融資を続けたとしてもその回収が図れないであろうことは明らかなことであったから,E3理事及びE4理事らとしては,Bに対するそれまでのような追加融資は極めて困難であるとの認識を抱いていたとみるのが相当であり,そして,現に,本件弁済充当行為からわずか1週間ないし10日前後を経た時点で,Bに対する正式な融資の打切りを決定しているのである。
これら一連の経緯に鑑みると,被控訴人としては,Bに対する自らの債権を確保するため,それによって建築会社の建築工事の続行・完成が不可能となり,ひいては同控訴人らの同契約金の返還請求権が実現不可能となる事態を予測していながら,同控訴人らが振り込んだ契約金を自己の債権に充当したものであり,このような経緯によって行われた本件弁済充当行為は,たとえそれがあらかじめ被控訴人とBらとの間でされた債権譲渡の合意(Cが被控訴人に対して同控訴人らに対する各工事代金債権全額を譲渡する旨の合意。
以下「本件債権譲渡の合意」という。)に基づくものであったとしても,Bの苦境や倒産の危機に瀕している事情を何ら知らない同控訴人らの債権者としての立場を著しく損なわせるものであり,債権確保の手法としては,もはや自由経済社会において一般に許容された自由競争原理の範囲内にある経済取引行為とはいえず,健全な商道徳に反し,信義則上,社会的妥当性の範囲を逸脱したものとして許されず,不法行為に当たるといわなければならない。
確かに,前記のとおり,本件弁済充当行為は,本件債権譲渡の合意に基づいて行われたものではあるが,同合意のされた時点から本件弁済充当行為時までの一連の経緯に徴すると,被控訴人からBに対する融資が停止されれば建築会社であるBらが倒産することは必至であって,被控訴人は,この事実及び同控訴人らがCに支払った各工事着手金等が各工事のために使用されないことにより当該工事の遂行が不能となることを認識していた(少なくとも認識できる状況にあった。)のであり,これらの被控訴人の認識等は,本件弁済充当当時はもとより,同控訴人らの各工事代金に係る債権譲渡の合意時においても同様であったというべきであり,したがって,被控訴人としては,本件弁済充当行為によって同控訴人らの各工事代金債権が返還請求不能等によって実現不能となり債権額相当の損害を被ることとなるのを十分認識していた(少なくとも認識できるに状況にあった)というべきである。
なお,被控訴人は,被控訴人がBに対する弁済期の到来した債権を有していた以上,同債権に同控訴人らの振り込んだ着手金等を充当したとしても,それは,当然な行為であって,不法行為には該当しない旨主張する。
しかしながら,確かに,本件弁済充当行為は,本件債権譲渡の合意に基づいて行われたものであり,同合意に基づいて譲渡を受けた同控訴人らの本件振込金を既に弁済期の到来していたBに対する債権に充当したものではある が,たとえそのように弁済期の到来していた債権への充当であったとしても,同合意のされた時点から本件弁済充当行為時までの先にみた一連の経緯に鑑みると,前記のとおり,本件弁済充当行為は,同控訴人らの有していた着手金返還請求権を違法な手段で侵害したということができるから,被控訴人の前記主張は採用することができない。
(3)そして,前記のとおり,平成7年7月31日のBの手形不渡りによりBらが事実上倒産したことから,乙事件控訴人らを各施工主とする各新築工事はいずれも全く着手すらされない(あるいはごく初期の基礎工事段階)状態のまま放置され,同控訴人らがCに支払った各工事契約金等もすべて回収が不能となったことにより,同控訴人らのCに対する前記各振込金の返還請求権が侵害され,同控訴人らに同振込金額(控訴人A1は2199万9350円,同A2は1406万円)と同額の損害が生じたものと認められる。
なお,控訴人A2は,控訴人A6に対する別訴において,和解が成立し,被控訴人のした本件不法行為による損害の一部補てん分として,平成8年7月末日及び同年11月末日に各60万円の計120万円の支払を受けている(甲70,原審控訴人A2,同A6,弁論の全趣旨)から,前記損害額から120万円を控除すべきこととなる(控除した残額は1383万0717円となる。)。
1平成7年7月15日から平成8年7月末日までの遅延損害金
1406万円×0.05×(1+17日÷365日)
=735,742円(円未満四捨五入。以下同じ。)
2同日付け補てん(60万円)による遅延損害金残額
735,742円60万円=135,742円
3平成8年8月1日から同年11月末日までの遅延損害金
1406万円×0.05×122日÷365日
=234,975円
4同日付け遅延損害金の合計額(2+3)370,717円
5同日付け補てん(60万円)による充当
370,717円60万円=マイナス229,283円
6同日付け元金充当
1406万円229,283円=1383万0717円
また,控訴人A2は,弁護士費用をも損害として請求しているとこ
ろ,同控訴人は,本件訴訟を弁護士である本件訴訟代理人に依頼して本件訴訟を遂行してきたものであり,本件訴訟に関する諸事情によれば,本件不法行為と相当因果関係にある弁護士費用としては,前記控除した残額の約10パーセントに当たる140万円をもって相当と認める。
したがって,同控訴人の損害額は,結局,1523万0717円となる(1383万0717円+140万円=1523万0717円)。
なお,被控訴人は,乙事件控訴人らに前記のとおりの損害が生じたことは認めながらも,同損害が生じたのは,本件弁済充当行為によってではなく,Bが倒産したことによるものであり,同損害と被控訴人のした本件弁済充当行為との間に相当因果関係はない旨主張する。
その具体的根拠となる主張については,必ずしも定かではないが,要するに,「本件弁済充当行為の後である平成15年7月31日にBは5137万5000円の資金手当が必要であったから,たとえ同控訴人らの前記振込金合計3485万9350円が被控訴人によって本件弁済充当行為の対象とされなかったとしても,同金額は,同控訴人らの各工事費用に充てられたとは考えられず,むしろBの支払に充てられたと考えられ,そして,Bが倒産すれば,同控訴人らには前記振り込みの場合と同様の損害が発生したはずであるからである。」というもののようである。
しかしながら,前記のとおり,融資が打ち切られるとBが倒産することは客観的にも明らかであり,被控訴人としても十分認識しうる状況において,被控訴人は,Bに対する融資の継続が極めて困難となることを予測しながら,しかも本件各工事の着手金等がBの被控訴人に対する債務に弁済充当された場合にはBらには建築資金が全くない状態に至るため倒産することとなることを認識した上,本件弁済充当行為に及んでいるのであって,そのような一連の経緯を踏まえた本件弁済充当行為及びこれに続く融資打切りによってBらは倒産し,同控訴人らに前記のような損害が発生したのであるから,本件不法行為と同控訴人らの被った損害との間には相当因果関係があるというべきである。被控訴人の前記主張は採用することができない。
また,被控訴人は,正式に融資打切りを決定したのは平成7年7月24日であって,それはIがBに対する支援から撤退したこと及びDが同日に,同月末に予定していた入金ができない旨を伝えたためである旨主張する。
しかしながら,前記のとおり,本件各債権譲渡及び弁済充当の際,被控訴人は,Bに対する融資が過剰となっており,その返済が困難な事態に陥っていたことや,融資が打ち切られればBらは倒産必至であることを認識しており,特に弁済充当の時点においては,これ以上の追加融資が極めて困難であり,打切りの具体的可能性も十分あることを認識し,あるいは少なくとも認識し得たのであるから,仮に,正式な融資打ち切りの決定が本件各弁済充当の後である同日であったとしても,このことは当裁判所の前記認定を左右するものではない。
(4)したがって,被控訴人は,本件不法行為に基づき,控訴人A1に対しては2199万9350円及びこれに対する平成7年7月18日(本件弁済充当行為の翌日)から,控訴人A2に対しては1523万0717円(1383万0717円に140万円を加えた額)及びうち金1383万0717円に対する平成8年12月1日(前記和解金の最終支払日の翌日)から,各支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
5結論
以上によれば,甲事件に関する控訴人らの請求は,いずれも理由がないから棄却すべきであり,これと同旨の原判決は相当であるが,乙事件に関する控訴人らの請求は,いずれも理由があるから認容すべきであり(ただし,控訴人A2の請求については,被控訴人の弁済充当の主張が理由があるため,同充当分を控除した残額を認容した。),これを棄却した原判決は不当である。
よって,主文のとおり判決する。

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    サービス残業(サービスざんぎょう)とは、本来の労働時間を越えて働いた場合に支払われる賃金のことで賃金不払い残業ともいいます。
    法律で規定されているものの、残業代を支払わない企業も多く、社会問題になっています。
    近年は企業の効率化による人件費抑制と人減らしの中、かつて正社員で補っていた業務を残業させられない非正規社員に置き換えられたことで(ただし、企業によっては時給制の非正規社員でもサービス残業を強いられる職場もある)、正社員が過剰に働かざるを得ない状況が発生しています。
    残業代の時効は2年。残業代の請求の手段を学習するなら[残業代請求ドットコム]。(http://zangyo-soudan.jp/)
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